ちょっとしたヒント
- コントロールできない結果ではなく、できる行動を記録しよう。
- ルールは一つだけ。二日続けては抜かさない。
- 悪い日でもカウントできる、ごく小さな版を用意しておこう。
習慣そのものとはまったく関係のない、ある種の挫折があります。新しい習慣を始めて、それを記録しはじめる。連続記録が伸びていく。そしてある日、うっかり一日抜けてしまう。鎖が途切れる。なぜか一日抜かしただけで、すべてが無意味に感じられて、やめてしまう。続けるためのはずだったトラッカーが、いつの間にか「あきらめた」という小さな記念碑になってしまうのです。
もしそんな経験があるなら、たいていは意志の弱さが問題なのではありません。記録のしかたに問題があるのです。習慣トラッカーは道具です。どんな道具とも同じで、あなたを助けるようにも、静かに足を引っ張るようにも使えます。この違いはきちんと押さえておく値打ちがあります。うまく記録できれば、新しい行動を定着させるいちばん確かな方法の一つになるからです。
そもそも、なぜ記録が効くのか
習慣は、決まった環境でくり返すことで身についていきます。同じ場面で、同じことを、何度も何度もくり返す。やがて脳は「始めよう」と決断しなくてもよくなります。最終的には、ある合図(コーヒーが入り終わる、玄関にそろえた靴、デスクに座る、など)だけで、その行動がひとりでに引き起こされるようになります。これがゴールのすべてです。行動を「やることリスト」から外して、努力なしに流れていく一日の一部にしてしまうこと。
記録が役に立つのは、そこにたどり着く手前の時期、つまり「学習中」の段階です。習慣がまだ意識的な努力を必要としていて、自動になりつつある手応えがまだ感じられないころ。シンプルに毎日チェックを入れるだけで、習慣がまだくれないものが手に入ります。「ちゃんと続けている」という目に見える証拠です。行動変容を研究する人たちが勧めているのも、まさにこの種のセルフモニタリング。毎日印をつけるだけの素朴なチェックシートを、習慣がひとりで回り出すまで使う、というやり方です。
ここで正直にお伝えしておきたい目安もあります。よく言われる「習慣は21日で身につく」というのは俗説です。研究者が実際に測ってみると、自動化にはずっと長くかかり、人によって大きくばらつきました。多くは数か月、もっとかかることもありました。よく知られた研究では、中央値はおよそ66日でした。ですから、3週間たっても新しい習慣がまだ楽に感じられなくても、あなたに問題があるわけではありません。あなたはただ、長い道のりの「ふつうの真ん中」にいるだけ。トラッカーは、そこを運んでくれるためにあるのです。
記録がワナに変わるとき
問題が始まるのは、トラッカーが習慣のために働くのをやめて、習慣のほうがトラッカーのために働きはじめたときです。いくつかのパターンが、ほぼ毎回これを引き起こします。
- 完璧な連続記録。 「途切れない鎖」だけが唯一の正解になると、たった一日抜けただけで全面的な失敗に感じられ、「もう台無しにしちゃった」が、すっかりやめてしまう言い訳になります。
- 一度にたくさん記録しすぎる。 五つの新しい習慣、五つのトラッカー、五つの「遅れている」と感じるきっかけ。記録そのものがフルタイムの仕事のようになり、それが「作業」だと感じた瞬間、終わってしまいます。
- まちがったものを測る。 自分で完全にはコントロールできない数値(体重計の数字、睡眠時間)を記録すると、実際にできる行動(散歩、消灯の時間)を記録する代わりに、すべて正しくやった日でさえ「失敗した」と感じる仕掛けになってしまいます。
- 裁くだけで、やさしさがない。 足りなかったところばかりを見せてくるトラッカーは、避けたくなるもの。避けてしまう道具は、あなたを助けられません。
気づいてほしいのは、このどれも習慣そのものの問題ではない、ということです。すべて「採点のしくみ」の問題なのです。しくみを直せば、習慣はずっと続けやすくなります。
もっとやさしい記録のしかた
目指すのは、調子のいい日は前へ引っぱってくれて、悪い日は許してくれるトラッカーです。作り方をご紹介します。
- 習慣は一つか二つだけ記録する。十個ではなく。 いま一番大事なものを選んで、あとは待たせておきましょう。これらがひとりで回り出したら、また増やせます。
- 結果ではなく、行動を記録する。 「やせた」ではなく「散歩した」に印をつける。「8時間眠った」ではなく「11時までに布団に入った」に印をつける。記録したいのは、自分の努力が本当にコントロールできることなのです。
- すでにやっていることに結びつける。 新しい習慣を、いまある合図に結びつけましょう。歯をみがいたあと、やかんがカチッと切れたとき、仕事に座った瞬間。安定した合図は、意志の力よりもずっと多く「覚えておく」仕事をしてくれます。
- トラッカーはばかばかしいほど簡単に。 冷蔵庫に貼った紙のカレンダー、スマホのメモ、チェックボックスを一列。しゃれたアプリでもかまいませんが、いちばんいいトラッカーは、考えずに本当に印をつけられるものです。
- 「二度続けて抜かさない」というルールを使う。 一日抜けるのはふつうのことで、安心してほしいのですが、習慣形成を意味あるほど損なうことはありません。研究によれば、一日抜けても進み具合はほとんど傷つかず、再開すれば習慣は育ちつづけます。連続記録は勢いのためであって、完璧のためではありません。だから守る値打ちのある唯一のルールは、二日続けて抜かさないこと、それだけです。
この最後の一つが、すべての静かなカギです。危険だったのは、抜けた一日そのものではありません。抜けた一日について自分に語る「物語」のほうなのです。一度つまずいたら、もう失敗だ、やめてしまってもいい、という物語。「連続記録を途切れさせた」を、「たまに抜けるけど、また戻ってくる」に置きかえれば、トラッカーはもうあなたを「やめよう」と説得できなくなります。
やる気が薄れても続けるために
やる気は、土台としては頼りないものです。来ては去っていくからです。やる気が出ない日のために、組み立てておきましょう。
ハードルは、悪い日でも越えられるくらい低く保ちます。2分版の習慣でもちゃんとカウントされますし、くり返しの鎖を生きたまま保ってくれます。それこそが、本当に自動化を育てるものなのです。通りの端まで歩くだけでもカウント。腕立て10回でもカウント。1ページでもカウント。小さくでも「やる」ことは、まったくやらないことに、いつだって勝ちます。
チェックが入ったことだけでなく、習慣がだんだん楽になっていくことに気づきましょう。一週間ごとくらいに、始めたころと比べて、いまどれくらい自動になったか自分に尋ねてみてください。「これ、楽になってきた」というその感覚は本物です。習慣が形になりつつあるしるしで、それが育つのを見守ることは、罪悪感で駆りたてる連続記録よりも、はるかにいい燃料になります。
習慣がついにひとりで回り出したら、トラッカーは引退させていいのです。それがゴールであって、ずっと記録しつづけることではありません。チェックシートは足場です。建物が立てば、足場は外すものなのです。
記録をすっかり手放したほうがいいとき
人によっては、記録がもっと重いものに傾いてしまうことがあります。一日抜けると本当につらくなったり、食事・運動・体重を測ることが、役に立つどころか強迫的に感じられてきたり。トラッカーが、あなたを安定させるどころか不安にさせているなら、それは手放すサインです。これらすべての目的は、もっと穏やかで安定した暮らしです。どんなチェックボックスも、それと引きかえにする値打ちはありません。
記録したい・数えたい・コントロールしたいという衝動がなかなか止められなかったり、自分の体や価値についての感じ方とからまっていたりするなら、医師やセラピストに話してみる値打ちがあります。あなたには、よい習慣を作りたいと願うことも、それをやさしく行いたいと願うことも、どちらも許されています。この二つは、もともと対立などしていなかったのですから。
出典
- National Center for Biotechnology Information, Making health habitual: the psychology of 'habit-formation' and general practice
- National Center for Biotechnology Information, Time to Form a Habit: A Systematic Review and Meta-Analysis of Health Behaviour Habit Formation
- NIH News in Health, Creating Healthy Habits