ちょっとしたヒント
- 最初の一手、逃げ道、最後の一行を、早めに決めておく。
- その日は、結果ではなく実行で採点する。
- 最後の二十四時間から、新しい決定をぜんぶ外す。
本番に強い人がいます。練習のときより、当日のほうがいい人です。あなたも見てきたはずです。リハーサルのときより、その場でこそ深く刺さる同僚のピッチ。電話面接よりも最終面接で冴えている候補者。シーズン中はふつうなのに、決勝で巨大になる選手。つい、生まれつきの気質ということにして片づけたくなります。生まれたときに、ちがう神経を配られたかのように。
そんなことはありません。測ってみれば、たいていは同じ建物にいる他の誰とも同じくらい高ぶっています。その人たちを分けているのは、抱えているアドレナリンの量ではありません。その横に、答えの出ていない問いをいくつ抱えているか、です。そして、プレッシャーがいちばん重く課税するのは、まさにその未決の問いなのです。
これはいい知らせです。未決の問いをいくつ残しておくかは、二日前に、静かな部屋で、頭をまるごと使える状態で、あなたが決められることだからです。
本当に大事なときほど、どうして力が出ないのでしょう?
プレッシャーは、あなたの腕前を直接は攻めません。攻めるのは、あなたが選ぶために使っていた余力のほうです。そして勝負の日には、いつもよりずっと多くの選択を、自分のために残してしまっている。どう切り出すかから、デモが落ちたらどうするかまで、決めていないことはぜんぶ、注意が狭くなり、作業記憶が小さくなり、時計が動いている、あの瞬間へと押し出されていきます。
本番で崩れる現象の研究に、それが見えます。ある研究では、テスト不安の強い人たちに、強いストレスのもとで負荷の高い計算課題をやってもらいました。すると、作業記憶の容量がいちばん大きい参加者が、いちばん大きく落ちたのです。容量を埋められたときに失うものが、いちばん多かったから、まさにそれゆえに。事前に短い筆記のワークでその荷を少し下ろしてもらうと、ストレス下での落ち込みは消えました。容量が問題だったことは、一度もありません。問題は、それが何に使われていたか、でした。
だから、役に立つ問いは「どうすれば緊張が減るか」ではありません。「入っていくその瞬間に、自分はまだ何を決めているのか」です。前の晩に答えておける項目はどれも、そのぶん仕事のほうへ返してやれる余力になります。
具体的に、何を前もって決めておけばいいですか?
三つです、書いて決めます。出だしと、逃げ道と、締め。出だしは、最初の一文を一語一句そのまま。逃げ道は、あてにしていたものが動かなかったときにどうするか。締めは、話すのをやめる前に言う、最後の一行です。
この三つで、崩れ方のほとんどが塞がります。出だしがぐらつくと、中身のあることを何ひとつ言わないうちに、その場があなたについて決めてしまいます。逃げ道がないと、壊れたスライドや厳しい質問が、いちばん悪いタイミングでの即興に変わります。そして締めがないせいで、力のある人が「まあ、はい、以上です」と尻すぼみになる。四語で、いい二十分が消えます。
頭の中ではなく、手で触れるどこかに書いてください。ポケットのカード、ページのいちばん上の一行、フォルダーの内側に貼った紙きれ。値打ちは紙にあるのではありません。生きた決定を三つ、動かない事実を三つに変えたことにあります。そしてそれは、自分の頭が自分を信じられなくなったとき、ひと目で確かめられるものです。
動かない事実の出どころを、もうひとつ挙げておく値打ちがあります。この分野でいちばん安上がりな強みなのに、誰も請求書を出さないからです。落ち着いている人がその場について知っていることのほとんどは、すでにそこにいた誰かが教えてくれたことです。だからあなたも、出てきたら、次の人に本当のところを伝えてください。誰が何を訊いたか、実際にどれだけ時間をくれるか、画面はちゃんと映るか。あなたの二分で、あなたが与えられたのと同じ助走を、別の誰かに渡せます。
前の日に新しい決定をしてしまうのを、どうやってやめますか?
最後の二十四時間は、店じまいと決めてください。新しい素材なし、新しいスライドなし、新しいエピソードなし、善意で言ってくれた誰かの助言を新たに取り入れるのも、なし。
これは、まちがっている気がして、実は正しいルールです。遅い変更が中身を良くする度合いは、なめらかさを損なう分にまず届きません。新しいものは、あなたがまだ一度も、声に出して本番の速さで言ったことのない、その一箇所だからです。しかも、その場であなたの注意が引っかかるのも、そこです。こうしてひとつの改善が、まるごとひと区切りを道連れにします。
もうひとつ理由があります。こまやかで、知っておく値打ちのある理由です。本物の競技のプレッシャーのもとでは、とても上手な人でさえ、自分に技術を言い聞かせはじめます。賞金がかかり、しかもスコアがあとで全員の前で読み上げられるという競技ラウンドで、ゴルファーたちに考えていることを声に出してもらったところ、強い選手ほど、練習のときよりはるかに多くの技術的なルールを言葉にしていました。とくにパッティングのときに。長年ひとりでに走っていた技術が、手動で操縦されはじめたということです。新しい素材は、その手動操縦が起きうる場所の数を増やします。慣れていないものは、定義からして、意識的な制御を要求するからです。
だから前の日は、足す日ではなく、減らす日です。あるものを一度読む。持っていくものを並べる。そしてファイルを閉じて、稽古したものを、そのまま本番でやることにする。
結果が自分の手を離れているとき、その日をどう評価すればいいですか?
結果ではなく、実行を採点してください。入る前に、これができていれば自分の仕事はうまくやれた、と言える三つを書き出します。三つとも自分の手の内にあることにして、イエスをもらえたかどうかではなく、その一覧に照らして振り返ります。
これは慰めではないし、基準を下げることでもありません。次の一回を良くしてくれる採点表は、これだけです。審査側の予算も、他の候補者も、その場の空気も、クライアントの役員会がその朝に開かれたかどうかも、あなたの手の内にはありません。手の内にあるのは、決めたとおりに切り出せたか、三つの要点までたどり着けたか、難しい質問に、まわりを回らずに答えられたか、決めた一行で終われたか。次へ持っていけるのは、そういうものです。
あとから振り返るときだけでなく、その場での効きめもあります。結果で自分を測る人は、結果を確かめ続けなければなりません。つまり、話している途中で、うまくいっているかどうかの気配を人の顔から読み取ろうとする。この読み取りは高くつくうえに、たいてい外れます。実行で自分を測る人は、内側から確かめられる一覧を持っているので、注意は仕事のほうに留まります。
その場で雲行きが怪しくなったら、どうしますか?
すでに書いておいた逃げ道へ行きます。声に出して、謝らずに。どこへ行くのかを言葉にして、その場の人たちを連れていき、速さはふだんのまま保ちます。
その場で起きる悪いことのほとんどは、そこにパニックを足しさえしなければ、生き延びられます。スライドが映らない、なら、なしで話す。質問が早く来た、なら、早く答えて、残りはあとで戻りますと言う。偉い人が十分遅れて入ってきた、なら、一文で背景を渡して、そのまま続ける。どれも失敗ではありません。ただの火曜日です。そして逃げ道を持っている人は、それを火曜日として扱います。
その場が実際に読んでいるのは、あなたの速さです。速さは、聞き手がいちばん早く受け取る信号です。あなたの中身を知らなくても読める、唯一のものだからです。小さな災難のあいだも、いつものリズムを保つこと。それが、それを小さな災難のままにします。
もっと欲しいと思うことは、問題ではありません
ここに書いたことは、欲しがる気持ちを減らせという話ではまったくありません。本番で出せる人たちは、たいてい、出せない人たちよりも強く欲しがっています。それでいいのです。強く欲しいという気持ちこそが、そもそも準備をやり遂げさせたのだから。問題は、望むことでは一度もありませんでした。問題は、そのために作られてもいない決定を、望む気持ちに任せきりにしていたことでした。
KEEP CALM の創業者は、彼自身の言い方で、これをあっさりと言います。欲しいもののために生涯かけて駆けずり回ってきたし、そのあいだ落ち着いていられる方法も見つけてきた。その二つは、同時に本当だった、と。これが、使える形です。落ち着きは、成し遂げたあとに手に入るものではないし、意欲の反対でもありません。ほんとうに何かがかかっている木曜日に、意欲を実りあるものに保ってくれるもの、それが落ち着きです。そしてそれが、二十年経っても高い水準でこれを続けている人がいる理由です。
だから、三つの決定を先に片づけて、前の日は店じまいにして、実行を採点して、そして取りに行ってください。この組み合わせは繰り返せます。それは、一度だけ見事だったということよりも、ずっと大きな主張です。
出典
- National Library of Medicine, Evidence for Skill Level Differences in the Thought Processes of Golfers During High and Low Pressure Situations
- National Library of Medicine, Effects of Expressive Writing on "Choking under Pressure" in High Test-Anxious Individuals
- National Library of Medicine, The fourth dimension: A motoric perspective on the anxiety-performance relationship