ちょっとしたヒント
- 無理に終わらせるより、文をそこで止めましょう。
- 最後にはっきり言えた要点を声に出して、そこから続ける。
- 三秒の間は、ミスではなく余裕に見えます。
話しはじめて10分。ここまでは順調です。会場はあなたと一緒にいて、話もちゃんと届いている。そして次の言葉に手を伸ばした瞬間、そこには何もない。言いかけた文に、続きがありません。400回は弾いてきた小節に、次の音が出てこない。小さくて、とてつもなく大きな沈黙。会場じゅうの顔は、まだ全部あなたのほうを向いています。
誰も教えてくれないことがあります。これは、人前に立ち続けている人なら誰にでも起きます。あなたが「この場でいちばんうまい人」と名前を挙げるような人たちにも、です。コンサートのソリストも頭が真っ白になります。いちばん経験のあるパートナーだって数字を忘れます。違いはひとつだけ。彼らには、次の三秒でやることが決まっている。しかもそれは、いつも同じひとつのことなのです。
この立て直し方は、今日おぼえられるくらい短くて、どんな場面でも使えます。基調講演でも、口頭試問でも、オーディションでも、結婚式のスピーチでも、はじめてのピッチでも。
プレゼンの途中で頭が真っ白になったら、どうすればいい?
文をそこで止める。いつもの速さで、ひと呼吸。最後にはっきり言えた要点を、もう一度声に出す。そこから続ける。立て直しはこれだけです。かかる時間はおよそ三秒。うまくいくのは、あなたが最後にはっきり言えた要点が、まだこの部屋に残っているからです。それをもう一度言えば、さっきまで走っていた線路の上に、そのまま戻れます。
途中で折れた文を、無理に終わらせないでください。着地できない文は、ただの埋め草になります。そして会場が本当に「慌てている」と受け取るのは、その埋め草のほうなのです。文の途中でもかまいません、きれいに止めてしまいましょう。ふいに止まる感じは、その人が自分で「ここで間をとろう」と決めたように見えます。それは話す人がふつうにやることです。
言い訳もしないこと。「すみません、完全に話が飛んでしまいました」と言えば、会場の注意を失って、返ってくるものは何もありません。みんなが見るのが中身ではなく、あなたの立て直しのほうになってしまうからです。あなたがどこへ向かっていたかを知っている人は、客席にほとんどいません。知っているのはあなただけ。つまり、何かが抜け落ちたと気づけるのも、あなただけなのです。
なぜ、押し通すより間をとるほうがよく見えるのか
間というのは、自信のある話し手がわざと使うものだからです。慌てて突っ走るのは、そうではありません。あなたの沈黙がやむを得ないものだったかどうか、会場には知りようがない。けれど、速くなっていくテンポ、細くなっていく声、途中で切れた言葉は、いちばん後ろの席にもちゃんと届いてしまいます。
ばれるのはテンポです。話の中身は、聞き手がいちいち考えて評価しなければならないもの。でも速さは、考えなくてもその場で読み取れる合図です。空白のあいだも、いつものリズムを保ってください。そうすれば、その空白は強調に変わります。逆に速度を上げれば、何かおかしいと会場に伝えたことになります。それは相手が持っていなかった情報で、いちど聞いたら、もう聞かなかったことにはできません。
急ぐより呼吸をしたほうがいい理由は、体のしくみのほうにもあります。頭が真っ白になったその瞬間、上から緊張の波がかぶさってきて、まず最初に呼吸を浅く、上のほうへ引き上げてしまう。ふだんの深さのひと呼吸を、意識して入れる。それだけで必要な二秒が手に入り、次の一文で声が細くならずにすみます。
三秒は、内側からはとても長く感じられて、外側からは何でもありません。一度ストップウォッチで測ってみてください。それだけで、こわくなくなります。
戻るときは、どんな一文を使えばいい?
戻るための一文は、前もって自分の言葉で書いて、持ち歩いてください。たとえば「ここからお持ち帰りいただきたいのは……」とか、「大事なところを、もう一度言いますね」とか、あるいはただ「では、さっきの数字に戻ります」でもかまいません。
前もって決めておく理由は、その場では思いつけないからです。一文が必要になるちょうどその瞬間は、一文を組み立てる力がなくなっている瞬間でもある。だから正直な作戦は、すでに作ってあるものを持っておくことです。自分が実際に口にする言葉を選んでください。誰かの台本みたいな言い回しは、緊張しているときには出てきません。
一文で足ります。二文になると、それは頭が真っ白になった話をするスピーチです。短く、前を向いた言い方で、最後は自分ではなく中身を指して終わるようにしてください。
そうしたら、実際に手で触れる場所に置いておきましょう。メモのいちばん上、名札の裏に忍ばせた小さなカード、楽譜フォルダの内側。そのカードが支えるのは、たった一行でいい。その場では組み立てられなかったけれど、読むことなら確実にできる一文です。
いちばんよく知っているところで、なぜ頭が真っ白になるのか
いちばんよく知っているところは、いちばん自動で流れているところだからです。そして緊張すると、人はその自動で動いていた技術を、わざわざ手動で操縦しはじめます。ひとりでうまく回っていた動きや一節を、意識がハンドルを握った瞬間に、全体が遅く、雑になってしまうのです。
研究にもはっきり表れています。賞金のかかった競技ラウンドの最中に、ゴルファーたちが考えていることを声に出すよう求められ、しかもスコアはあとでグループ全員の前で読み上げられると分かっていたとき、技術の高い選手ほど、練習のときよりずっと多くの技術的なルールを口にするようになりました。とくにパッティングのあいだが顕著で、その傾向は、こうした自己観察に走りやすい選手でいちばん強く出ました。彼らの腕が一晩で落ちたわけではありません。彼らの注意が、その腕の内側に入り込んでしまっただけなのです。
ここで正直な補足をひとつ。この話の広まり方は、少し単純すぎるからです。スポーツ心理学の研究者たちは、自分に注意を向けることが必ず悪いわけではない、大事なのは何にどう注意を向けるかだ、と指摘してきました。結果に向ける注意、客席に向ける注意、すでに自動で動いているものの仕組みに向ける注意は、高くつきます。次にやろうとしていること、次のフレーズ、次の要点、狙っている的に向ける注意は、安上がりで、たいていは助けになります。
だからこの立て直しは効くのです。最後にはっきり言えた要点をもう一度言うことで、注意はもう一度、外側の中身へ向きます。そこは、注意があなたから何も取り立てない、ただひとつの場所です。
次はこうならないために、何をしておけばいい?
中身だけでなく、立て直しのほうも練習しておきましょう。通し練習のたびに一回、わざと文の途中で自分を止めて、呼吸して、用意した一文を言って、続ける。三回か四回もやれば、それは事件ではなくなって、ただの手順になります。
たいていの人は、すべてがうまくいくパターンしか練習しません。だから、本当にこわがっているただひとつの場面に対して、何の準備もないままになります。失敗のほうを練習することが、そこから怖さを抜いてくれます。こわかったのは、忘れることそのものではなかったからです。そのあと何が起きるのか分からない、そちらがこわかったのです。
ついでに、難しいところも単独で練習しておきましょう。本番の速さで、声に出して、いつもなんとなく通り過ぎてしまう箇所から始めるのです。あなたの頭が真っ白になる場所は、たいてい、そこだけを取り出して練習したことが一度もない場所です。
目の前の誰かが真っ白になったとき
この場面は、自分が舞台に立つときよりも、客席から見ることのほうがずっと多いはずです。そして、こちらは何も減らないのに、相手にはとてつもなく大きく届く。そういうことが四つあります。
顔をやわらかく開いたまま、その人を見ていてください。スマホに目を落とさない。となりの同僚と目を見交わさない。気の毒そうに顔をしかめるのも、やめておきましょう。まずい瞬間に味方の顔を探している人が探しているのは、たったひとつのことです。それを差し出す人になるのは、本当の意味での手助けです。
文を代わりに言い終えて助けようとしないこと。助けに見えて、届くのは判定です。この人はひとりではたどり着けなかった、と会場に伝えてしまうからです。三秒を渡してください。ほぼ確実に、その人には戻り道があります。
そして終わったあとに、立て直せていたことを声に出して伝えてください。「すごくよかったよ」ではありません、それは信じてもらえません。伝えるのは具体的なほうです。「10分あたりで一回言葉が飛んでたよね、でもどこで戻ったのか、全然分からなかった」。自分がうまく切り抜けられたことを、ほとんどの人は一生知らないままです。誰も教えてくれないからです。そして教えてもらえたかどうかで、その人が次の本番へ入っていく足取りが変わります。もしその人にとって意見が大切な相手がそばにいるなら、その人に聞こえるところで言ってあげてください。あなたが差し出すのは、一文だけです。
これはそれ自体でやる価値のあることですが、返ってくるものもあります。誰かが真っ白なところから戻ってくるのを見ることは、会場はこれを許してくれるのだと学ぶための、いちばん安い方法です。そしてその確信こそが、いつかそれが自分の身に起きた日に、あなたの手を落ち着かせてくれます。
出典
- National Library of Medicine, The fourth dimension: A motoric perspective on the anxiety-performance relationship
- National Library of Medicine, Evidence for Skill Level Differences in the Thought Processes of Golfers During High and Low Pressure Situations
- National Library of Medicine, Music Performance Anxiety: Can Expressive Writing Intervention Help?