ちょっとしたヒント
- 4行だけ。件名に話題をそのまま書く。
- 数字はメールに書く。面談まで持ち越さない。
- 返事がほしい期日で締めくくる。
言い分はそろっています。3月から、あなたはより大きな仕事を引き受けてきました。それに市場がいくら払うのかも、だいたいわかっています。金額も決めました。あとはメールを送るだけ。なのにそのメールを、もう6回も書き直しています。
最初の版は3行で、そっけなさすぎる気がしました。6番目の版は4段落あって、書き出しで長さを詫び、肝心のお願いは終わりのほうに埋もれています。
正しかったのは、最初の版です。最初のメールは論証ではありません。扉です。その唯一の仕事は、あなたの数字がすでに見えている状態で、ちゃんとした話し合いをカレンダーに載せること。そうすれば、その話し合いの最初の10分を、あなたが何を望んでいるのかを探る時間に使わずにすみます。
4行あれば足ります。話題、数字、仕事に根ざした理由をひとつ、そして返事がほしい期日。ほかに書いたことはすべて、面談の準備であって、メールの中身ではありません。
もっとお金がほしいと伝えるメールに、実際は何を書けばいいですか?
4行と、話題をそのまま書いた件名です。1行目は、何の話かを伝えます。2行目は、具体的な金額、または具体的な変更を出します。3行目は、気持ちではなく仕事に根ざした理由をひとつ。4行目は、期日を決めて返事をお願いします。
全文はこちらです。そのまま使ってもらってかまいません。
件名: 2027年の私の給与について
Danaさん、計画サイクルが締まる前に、私の給与について一度お話しさせてください。
現在の$104,000から、基本給$118,000をお願いしたいです。
3月から、請求システムの移行と、それに伴う2つの連携を私が担当してきました。これは私の一段上のポジションの仕事です。またPriyaさんが抜けてから、チームはリーダー不在のまま動いています。
来週、20分をカレンダーに入れられるかどうか、14日の金曜日までにお知らせいただけますか。
読み返してみてください。100語に満たない長さで、返事がしやすく、読む人にあなたの望みを推測させることが一度もありません。
なぜ4行は4段落に勝つのですか?
短いメールは返事のコストが低く、長いメールは高いからです。読む人の受信箱はいっぱいで、段落がひとつ増えるたびに、あなたのメッセージが「あとで」に移される確率が上がります。そして「あとで」は、実際にはたいてい「ずっとしない」という意味になります。
長さもまた、こちらの内側を漏らします。びっしり書かれた背景説明は、人前でひとり言い争っている人のように読めます。それは読む人に、あなたの本当のお願いに答えるかわりに、あなたの言い分に反論することをうながします。理由をひとつ足すたびに、相手が異議を唱えられるものがひとつ増えるのです。仕事の中で目に見える何かに根ざした理由がひとつあるほうが、守りを固めて積み上げた5つの理由より、ずっと退けにくくなります。
これには研究の裏づけがあります。Program on Negotiation が紹介したメール交渉の研究では、いちばん良い結果を出したのは、この媒体を意識して使いこなした人たちでした。期待をはっきり言葉にし、こまめに連絡を取り合い、一度に複数の論点をまとめた提案を出す。書くことの利点は、まるごと明確さにあります。それを使いきってください。
ひとつだけ注意を。短いことと冷たいことは、同じではありません。人間らしい言葉をすべて削ってしまうと、4行はぶっきらぼうに読めます。あいさつは残してください。最後にあたたかい一文を残してください。そして短さは、お願いのある真ん中で働かせてください。目指すのは、短くてあたたかい文章です。短くて素っ気ないだけの文章は、読む人を身構えさせるだけです。
数字はメールに書くべきですか、それとも面談まで待つべきですか?
メールに書いてください。「直接お会いして相談したい」と言って数字を伏せるのは、丁寧に聞こえますが、たいていはあなたの側が損をします。相手はその間に、出せる範囲を自分の中で決めきった状態で面談に来るからです。そしてあなたは、何ひとつ基準を置かないまま席に着くことになります。
文字にした具体的な金額は、役に立つことを2つします。ひとつは、そのあとの話し合いがそこを起点に動く基準点をつくること。アンカリングの研究がくり返し見つけているのは、まさにこれです。もうひとつは、面談の前に、上司が地味な社内の作業を進められるようにすること。給与レンジを確認する、財務に聞く、本当に何が可能かを調べる。準備できる状態をこちらがつくってあげたとき、人は早くうんと言ってくれます。
正確さも助けになります。$118,000は「$120,000くらい」よりもよく届きます。きっちりした数字は何らかの手順を踏んだ結果として読まれ、丸い数字は、半分に値切られるのを待っている最初の言い値として読まれるからです。
件名には何を書けばいいですか?
話題をそのまま書いてください。「2027年の私の給与について」「次の案件の料金について」「作業範囲の変更のご相談」。「ちょっと質問です」は絶対にやめましょう。何の話かを隠すものも、すべてやめましょう。
話題を隠した件名は、開いた瞬間に不意打ちのように感じられ、読む人が少し身構えたところから会話が始まります。素直に名前をつけると、その逆になります。お願いが、個人的な頼みごとではなく、ふつうの業務の一件として整理されるのです。そしてふつうの業務の一件には、ちゃんと日程が入ります。
選べるなら、週の半ばの午前中に送りましょう。何かの小細工のためではありません。火曜の朝の受信箱にはまだ余白があり、金曜の午後の受信箱にはないからです。
返事が来ないとき、どう催促すればいいですか?
自分で挙げた期日が過ぎるまで待って、それから3行送ります。お願いを一文で言い直したもの、あれば新しい事実をひとつ、そして新しい期日。責める言葉はなし。「念のため再送です」もなし。催促したことへの謝罪もなしです。
返事が来ないことのほとんどは、断りではありません。廊下を歩きながらあなたのメッセージを読んで、返そうと思っていて、別のことに引っぱられただけの人がそこにいます。催促は、その用件を山のいちばん上に戻してあげる、相手への親切です。
2回の催促で何も動かないなら、もっと書くのではなく、手段を変えましょう。15分ください、と頼んでください。文字にしたくないことは、口ではあっさり話してもらえることが多いものです。そして遅れている理由は、たいていあなたが使える情報です。
送ったものは控えを残しておいてください。6か月後、次の計画サイクルで役に立つのは、その話し合いについてのあなたの記憶ではありません。誰かが話題にする前に、あなた自身の言葉で数字と理由を書き出した、日付の入ったメールのほうです。
メールは扉であって、部屋ではありません
ここまでのどれも、準備の代わりにはなりません。Deepak Malhotra が Harvard Business Review で書いているのは、交渉でいちばん高くつく間違いは、誰かが席に着く前にすでに起きている、ということです。最初のメールは、静かな午後にあなたが決めておくべきことの、目に見える先端にすぎません。何をお願いするのか。今日この場でサインしてもいい条件は何か。そして答えがノーだったとき、代わりに何をするのか。
ですから今夜、4行を書いて、送る前に一度だけ声に出して読んでみてください。その人の顔を見ては言わないような言葉は、そこで削れます。実際には、冒頭の謝罪と、末尾の予防線が消えます。それからノートパソコンを閉じましょう。下書きはもう終わっていて、次にやるべきことは7回目の書き直しではないからです。面談の前に3つの数字を決めておくこと。そして、最初のひとつを声に出すときに声が落ち着いているよう、しっかり眠ることです。
ここでたくさん望んでいいのです。はっきり伝えることは攻撃ではありません。決める側の人への礼儀です。そしていちばん明確なお願いは、相手がいちばんうんと言いやすいお願いでもあります。
出典
- Program on Negotiation at Harvard Law School, メール交渉に臨むなら、先手を打つ
- Harvard Business Review, 交渉は、始まる前に決まっている
- Program on Negotiation at Harvard Law School, 交渉におけるアンカリングとは?