ちょっとしたヒント
- 金額はひとつの文で言い切って、そこで口を閉じましょう。
- 次に何か言う前に、四秒数えてください。
- 金額のあとに「でも」を続けないこと。
準備は、もう終わっています。その仕事の相場もだいたい分かっていて、今年自分が何を出したかも分かっていて、黙って受け入れてしまうであろう金額より少しだけ上の数字が、頭の中にある。ここまでで、大きな仕事はほとんど終わりです。しかも、多くの人がそもそもたどり着けないところまで来ています。残っているのは、四秒ほどのことです。希望額を聞かれて、あなたが数字を言い、そのあと会話に空白ができる。結果のかなりの部分が、その空白の中にあります。
これは性格ではなく、技術です。それはいい知らせで、技術は練習できるけれど、性格のほうはたいてい変えられないからです。口数の少ない人が、これをとても上手にやることがあります。すっきりした一文を言って、その次の一文を言わない、という練習をしてきた人たちだからです。
希望額を聞かれたとき、実際には何と言えばいいのでしょう
数字の入った一文を言い切って、そこで止まります。「11万を希望しています」、これで全部です。そのあとに付け足す言葉のほとんどが、その人からお金を削っていきます。
この一文からは、三つの癖が価値を漏らしていきます。三つとも、今週のうちに直せます。ひとつめは、幅を持たせること。9万5千から10万5千と言えば、あなたは10万5千を出したつもりでも、相手は9万5千を聞いています。幅というのは、低いほうの数字が衣装を着ているだけです。ふたつめは、前置きです。「予算が厳しいのは分かっていますし、もちろん柔軟に考えます、ただ、できれば……」。数字がたどり着くころには、値切りたい相手の手で、すでに三回値切られています。みっつめは、最後にくっつく「でも」。「でも」のあとに続くものは、誰も頼んでいない譲歩です。
ですから、事実を述べるときのそっけない文法を使ってください。お願いでもなく、願望でもなく、数字です。最初の提示についての研究は、これが大事な理由について一貫しています。いくつもの実験を通して、先に数字をテーブルに置いた側のほうが、最後にいい結果になりやすく、その最初の数字が、話の落ち着く場所をかなり言い当てていました。
数字を言ったあと、どれくらい黙っていればいいのでしょう
四秒を目安の下限にして、相手が明らかに考えている様子なら、そのまま待ちます。この静けさは拒絶ではありませんし、にらみ合いでもありません。沈黙は力比べではなく、計算が進んでいる時間です。
わたしたちの多くは、二秒と八秒の違いを体で感じ取れません。だから、数えることが助けになります。ゆっくり四つ数えてください。何も起きなければ、もう四つ数えます。ここで守っているのは、その場を助けに行こうとする反射から自分を守ることです。沈黙を埋める人は、ほとんどいつも譲歩で埋めますし、それはたいてい、最後に話したほうの人です。
MIT Sloan の研究者たちが録音された交渉を分析したところ、三秒以上の沈黙は、話が動く直前に現れることが多いと分かりました。さらに役に立つのは、その沈黙がどちらか一方を怯ませるのではなく、両方の側にとってよい結果につながっていた、という点です。沈黙は、片方の得は片方の損でなければならない、という思い込みを断ち切ります。これが、間を置くことの正直な理由です。駆け引きとしての説明より強い理由でもあります。月曜日にもまた一緒に働く相手に、そのまま使えるからです。
言い終わる前に押し返されたら、どうすればいいでしょう
相手の文が終わるまで待って、それから同じ数字を、一度目とまったく同じ声でもう一度言います。同じ音量、同じ速さ、新しい言葉は足しません。
繰り返しには、新しい理屈にはできないことができます。一度だけ言われた数字は、試すことができます。二度目も落ち着いて、いらだちもなく、新しい理由を貼り付けもせずに言われた数字は、もう決まったことのように受け取られます。そして人は、決まったことを押すのをやめます。声を変えれば、桁は変わっていなくても、数字のほうが動いたと伝えたことになります。
理由を聞かれたら、仕事に根ざした理由をひとつだけ答えて、また止まります。「この範囲の仕事なら、市場はこのあたりです」で十分です。理由を三つ積み上げないこと。積み上げは、自分に言い聞かせている人の話し方に聞こえますし、山の中でいちばん弱い理由が、相手の突いてくるところになります。
自分で自分の金額を下げてしまわないためには
入る前に一文を書き出して、目に入るところに置いておきましょう。すでに決めてある一行を読むほうが、心拍数が上がっていくなかで文を組み立てるより、ずっと簡単です。
それから、手と口に仕事をあげてください。ノートを開いておいて、話し終えた瞬間に書きはじめます。書くことは、黙っていていい正当な理由になりますし、にらめっこではなく、仕事のできる人の様子に見えます。通話なら、ミュートがきっちり四秒だけ味方になってくれます。
せっかくの積み上げを台無しにする二つの言葉に、気をつけてください。「でも」と「ちょっと」です。「でも、柔軟に考えます」は、手に持っていたものを全部返してしまいます。「ちょっと聞いてみただけで」は、要求を事故に変えてしまいます。どちらも、値段のつかない紙の上で消しましょう。口から出すと、高くつきます。
入る前に決めておく三つの数字は
三つです。声に出す最初の提示、今日その場でサインできる目標、そして温かい態度で断る撤退ラインです。静かな午後に、三つとも紙に書いて決めておきます。その場で作らないこと。
最初の提示は、わざと目標より上に置きます。先に言われた数字が上限を決めてしまい、そのあとは一方向にしか動かないからです。目標は正直な数字で、迷わず「はい」と言える金額です。撤退ラインは、ほかの二つを守ります。断ると先に決めてある数字は、その部屋の中でずっと断りやすいからです。
人が折れる理由で、いちばん多いのはこれです。前もって決めていなかったから、人前で、時間に追われながら、計算と気持ちの整理を同時にやるはめになるのです。紙に三つの数字があれば、その重さの半分がなくなります。印刷して、伏せた状態でパソコンの横に置き、必要になったらめくってください。
四秒は生まれつきではなく、鍛えて手に入れるもの
プレッシャーの中でも動じない体は、作るものです。そして作られる場所は、その打ち合わせの外にあります。重いセットを、楽な範囲よりもう一回だけ持ちこたえたことのある人は、心拍数が上がった状態で落ち着きを保つ練習を、もう済ませています。この四秒が求めているのは、まさにそれです。これは健康の話への寄り道ではありません。火曜日にトレーニングをした人が、水曜日に落ち着いた声でいられる理由そのものです。
この会話がどれほどありふれていて、どれほどよくあることかも、思い出しておく価値があります。Pew Research Center によれば、2021年に仕事を辞めて新しい仕事に移った人のうち、56% がそのあと収入を増やしていました。人が求めるときにお金は動きますし、求めることは度胸の見せ場ではなく、働く生活のふつうの一部です。
KEEP CALM の創業者、Kaʻohele Carlos は Chief Design Officer です。キャリアの間ずっと必死に働いてきて、その途中で落ち着きを保つ方法を見つけてきました。本人によれば、その二つはずっと並んで走っていたそうです。これを人に伝える価値があるのは、その一点だけです。四秒は、望みを小さくするための技術ではありません。もっと大きく求めて、それでもまだその部屋にいて、二十年後にもまだこの業界にいるための技術です。
本当に欲しい数字を求めてください。ひとつの文として言いましょう。そして四秒を過ごして、相手に先に話してもらいましょう。
出典
- PubMed, アンカーとしての最初の提示:視点取得と交渉者の焦点が果たす役割
- MIT Sloan, 交渉では、沈黙を使って全員の結果をよくする
- Pew Research Center, 2021年に仕事を辞めた人の過半数が、低い賃金、昇進の機会のなさ、尊重されていない感覚を理由に挙げた