ちょっとしたヒント
- 何がそろえばイエスになるのかを聞いて、そこで止まる。
- 相手の答えを、目の前で書きとめる。
- 部屋を出る前に、次に話す日を決める。
あなたは、聞きました。ほかの何よりも先に、そのことに気づいておく価値があります。一度聞ける人は、来年もういちど、もっといい材料ともっといい数字を持って聞ける人だからです。力のある人でも、そこまでたどり着かないまま終わることは、めずらしくありません。
そして、相手はノーと言いました。部屋が静かになって、自分で選んだわけでもない表情が顔に出て、これが何なのかを決めるのに、あなたには6秒ほどしかありません。ただ、何かを決める前に知っておいてほしいことがあります。ノーのほとんどは、あなたへのノーではありません。それは、この形の、この予算の、この四半期の話へのノーであって、しかもたいていは、決めた人ではなく、決まったことを伝えているだけの人の口から出ています。ノーのあとの60秒は、その前のお願いよりも価値があります。かわりにどういう形なら通るのかを、声に出して教えてもらえる唯一の場面だからです。
ノーと言われた最初の10秒、何を言えばいいですか?
はっきり言ってくれてありがとう、と伝えて、それから質問をひとつだけしてください。言い返さない。自分の主張をもう一度並べない。そして、まったく気にしていませんよ、と急いでフォローしにいかない。
その気づかいが、じつは落とし穴です。「いえいえ、よくわかります、まったく問題ありません」は、気まずさを止めるために口から出てくる言葉で、その場で会話を閉じてしまいます。この話はもう終わりです、そして自分のお願いは一息で引っこめられる程度のものでした、と伝えたことになるのです。
かわりに、ひと呼吸おいてください。ノーのあとの3秒の沈黙は、すねているのではなく、考えているのです。そしてその沈黙は、ノーをそのまま置いておくと人がほぼ必ず足してしまう一文のための、すき間になります。理由、制約、あるいは、こうだったら違ったのに、というひとこと。その一文が来るのを待ちましょう。たいていはその打ち合わせでいちばん役に立つ情報で、しかもあなたは、しゃべらないというだけでそれをただで手に入れます。
これが誰のノーなのかを、早めに見きわめておくのも助けになります。2つ上の階層で決まったことを伝えているだけの上司と、予算そのものを持っている上司とでは、必要な会話がまるで違います。それは、ていねいな質問ひとつでわかります。「これは、ご自身で決められることですか。それとも、上に上げてくださることですか」。この質問で気を悪くする人はいませんし、その答えが、本当に説得すべき相手を教えてくれます。
閉じた会話を本当に開き直す質問は、どれですか?
「これがイエスになるには、何がそろっている必要がありますか」と聞いてください。一文で済み、けんか腰にも聞こえず、やりとりを判決から条件のリストへと移してくれます。
ほかの言い方と比べてみましょう。「どうしてだめなんですか」は、相手に決定を守らせる質問で、人は決定を守るときに、それをより固くします。「何とかなりませんか」は一語で答えられてしまい、主導権をまるごと相手に返します。「これがイエスになるには、何がそろっている必要がありますか」は、答えが違っている未来をあらかじめ前提にして、それを説明してくださいとお願いしています。前言をひるがえすことに比べれば、こちらはずっと引き受けやすい頼みごとです。
質問は、思われているほど高くつきません。実際の会話を対象にした3つの研究で、質問を多くした人、とくに掘り下げの質問をした人ほど、話し相手から好かれていたこと、そして私たちの多くがその効果を低く見積もっていることが確かめられました。質問することで好意を使い果たすのではありません。いちばん大事な情報を集めながら、好意を積み上げているのです。
理由を聞くべきですか、条件を聞くべきですか?
条件を聞いてください。理由は過去を説明するもので、条件はあなたが近づいていける未来を描くものです。月曜日から動けるものをくれるのは、そのうち片方だけです。
「今期は予算がない」は理由です。「6月までに取引先との関係をあなたが回している状態なら、新しい年度では簡単な話になります」は条件で、これはまったく別のものです。そこには日付があり、担当する範囲があり、その金額を正当化する仕事の中身があります。誰かがいま、あなたに計画をひとつ手渡したのです。
理由しか返ってこなかったら、もうひとつだけ質問して、やめてください。「わかりました。可能になるには、何が変わればいいですか」。そしてまた黙ります。質問2つと沈黙2つ、それがこの技術のすべてで、心臓がばくばくしているときにも使えるくらい短いのです。
何を書きとめて、それは相手の目の前でやるべきですか?
相手がまだ話しているうちに、その目の前で、あなたの要約ではなく相手の言葉のままで書きとめてください。それだけで、会話の色合いが変わります。断られた場面ではなく、ふたりでいま進めている作業になるのです。
言い回しは、そのまま写してください。「大口の取引先を、あなたが最初から最後まで見ている状態が見たい」と言われたなら、その一文があなたの次の12か月であり、次に切り出すときの最初の一言です。木曜日に自分の言葉でまとめ直したメモからは、肝心なところが抜け落ちています。相手がくれた答えは、相手自身の言葉で書かれた、来年の交渉です。
数字も書きとめてください。ノーには、対案の数字がくっついてくることがよくあります。その数字はアンカーで、最初の提示額とまったく同じ働きをします。先にテーブルに数字を置いたほうが、最終的な着地を自分のほうへ引き寄せやすいのです。記録はしても、それを真実として扱わないこと。それは一方の出だしの立場で、あとで使うために書きとめておくだけのものです。
押しつけがましくならずに、次に話す日を決めるには?
日付は、お願いごとではなく段取りの話として聞いてください。「この件に戻るのにちょうどいいのは、9月ですか、それとも新しい予算年度の頭ですか」。2つの日付から選ぶほうが、開いたままのお願いよりずっと答えやすいのです。
そしてその日のうちに、3行で文面にして送ります。ありがとうございました、必要な条件はこう受けとめました、次に見直すのはこの時期でしたね。短く、あたたかく、言い分は入れない。この一通は、静かに3つの仕事をします。ちゃんと聞いていたことが伝わり、まだ全員の記憶が一致しているうちに条件が記録に残り、その打ち合わせが終わりではなく続きを持つものになります。
正直なところ日付はない、という答えが返ってきたなら、それも情報です。しかも、助けになるほうの情報です。条件も日付もついていないノーは、交渉ではなく、線引きです。それを早めに知れば、まだそのための力が残っているうちに、次にどうするかを決められます。
書きとめたノーは、意味のわからないままのイエスより価値がある
ノーのいちばんいい結末は、入ってきたときには持っていなかったものを持って出ることです。条件と、日付と、ここで価値と呼ばれるものについての相手自身の言葉。それは仕様書です。ところが多くの人は、かわりに打ち身だけを持って出ていきます。「問題ありません」と言って、1分もたたずに部屋を出てしまうからです。
ここで変わるのは、数字ではありません。変わるのは、気まずさを止めにいってしまう反射のほうです。その反射は、働くたびに毎回お金を減らします。そして、これはまるごと練習でなおせます。静かな3秒の間を、ひとつずつ積み重ねていくだけです。
何がそろえばイエスになるのかを聞く。答えを書きとめる。日付をもらう。そして、その条件を本当のことにしてから、同じ数字と、よりよい証拠を持って戻ってくる。