ちょっとしたヒント
- お金が入る前に、自分の分を決めましょう。
- 次は時間を買い戻す。時間を返してくれる唯一の買い物です。
- そして、その人がいない部屋で名前を口に出しましょう。
ボーナスが入った、あるいは還付金が戻ってきた、あるいは前より明らかに多い給料をはじめて受け取った。あなたが働いて手に入れたお金だから、思いきり喜んでいい。そしてあなたに残された時間は、だいたい一週間。それを過ぎると、そのお金はあとから名前も言えない何かに溶けていく。しかも今のところ浮かんでいる使い道は、すでに持っているものの、もう少しいいバージョンだけだ。
そのアップグレードは、実はリストのなかで一番よくない買い物だ。しかもそれは、あなた自身の経験がすでに知っている。前に買ったときのうれしさは数週間もった。そして新しいものは、ふつうのものになった。
お金は、たしかに長もちする「いい感じ」を買える。かなり確実に、いくつかの決まった形で。そのなかで一番長く残るのは、誰かのために使ったお金だ。あなたがおごったごはん、あなたが払ってあげた講座の受講料、友だちの机の上から取り上げてあげた請求書。これは道徳の話ではなく、どの買い物が一年後もまだ効いているか、という実用の話だ。
自分のために買ったものは、どうしてこんなに早く色あせるのだろう
慣れてしまうからだ。しかも速く、完全に。同じ状態でありつづけるものに対して、人の注意は必ずそうなる。自分のものになった時点で、それは数週間で背景になる。だから、すでに持っているものをアップグレードする買い物は、いちばん寿命が短い。
このパターンは、研究を持ち出さなくても自分で確かめられる。あなたにとって「けっこうな金額」と言えるラインを超えた、直近の買い物を五つ書き出してみる。そのうち、いまも存在を感じているものに印をつける。生き残っているのは、たいてい何かの仕組みごと変えてくれたものだ。そして消えているのは、たいてい、ちゃんと動いていたものを、少しだけよく動くものに置きかえただけのものだ。
だからといって、自分のためにものを買うのをやめようという話ではない。それは人生を小さくする話だし、この記事は「もっと少なく望もう」という記事ではない。言いたいのは、自分が何を手に入れているのかを分かっておこう、ということだ。アップグレードが買えるのは、いい気分の数週間。だったらその値打ちを正直に「いい気分の数週間」と見積もって、その数週間に見合うなら遠慮なく買えばいい。
いくら渡せばいいのか、そしてそれをいつ決めるのか
お金が入ってくる前に決める。入ったあとではない。前もって決めた分は決断になり、あとから決めた分はその日の気分になる。だから、残った分でと考える人のほとんどは、結局なにも残っていないことになる。
この記事は、その割合がいくつであるべきかは言わない。正しいパーセンテージはないし、まずここまで稼いでからという条件もないし、あなたの人生に具体的な数字を出してくる人は当て推量をしている。大事なのは、お金より先にその数字が存在していること。前もって決めた分は、気が進まない月でも生き残る。よい心がけは生き残らない。
やり方は地味で、地味なのがいい。分を決める。行き先を決める。お金なら、決まった日の自動送金にして、毎回決断しなくていい形にする。お金でないなら、そしてたいていはお金ではないけれど、同じ紙に書いて、同じ日付をつける。このカテゴリーが教えている技術はぜんぶ、一度だけ、前もって決めておくこと。そうすれば、しんどい月がそれを交渉し直せない。人に渡すことは、その技術を練習する場所としていちばん役に立つ。外から強制してくるものが、何ひとつないからだ。
残ったお金で、自分には何を買えばいいのか
まず時間を買い戻す。自分のために買えるもののなかで、時間だけが唯一、時間を返してくれる。そしてあなたが本当に作ろうとしているものに変えているのは、その時間だ。
時間を買うことについて Proceedings of the National Academy of Sciences(米国科学アカデミー紀要)に発表された研究では、気が進まない作業をお金で手放すことが、人生の満足度の高さと結びついていた。さらに実地の実験では、時間を節約する買い物のあとのほうが、ものを買ったあとよりも幸福感が高いと報告された。現実には、掃除であり、通勤であり、毎週日曜の午後に下手なままやりつづけているあの作業だ。そしてもうひとつ、積み上がっていく形にも名前をつけておきたい。買い戻した時間を自分の力に、学びに、睡眠に、技能に使うと、その見返りは来年どれだけの荷物を持てるかに出てくる。この先数週間の気分にではなく。
そのあとは、長もちする形が三つ。好きな人との経験。何度も話すから、何度も効いてくる。大きくてまれな喜びより、小さくて頻度の高い喜び。慣れを相手にするなら、大きさより回数が勝つ。そして、繰り返し起きるイライラを消してしまうこと。毎週こっそり払っていた小さな税金がなくなるので、これはリストのなかで一番過小評価されている買い物だ。
使えるお金がないとき、私は何を渡せるのか
あなたが本当に得意なことを渡す。しかも、特定のひとりに渡す。働く人生のなかで見返りの大きい与え方は、そのほとんどが勇気以外なにも要らない。だから、ボーナスがいくらだったかに関係なく、今夜からできる。
私たちの創業者は、自分の場合をこう率直に語っている。成功のもうひとつの秘訣は返すことだった、と彼は言う。自分のまわりの人を指導し、育て、助言し、引き上げ、たたえ、味方する機会をいつも探していた。そして返ってきたエネルギーと支えは十倍だった、と。これは世の中がどう帳尻を合わせるかという法則ではなく、彼が自分の二十年について語っている話だ。そして彼は、たどり着いてからではなく、登っているあいだずっとそれをやっていた。ほとんどの人がやらないのは、そこだ。
五つの動き。どれも無料で、どれも今週できる。自分のなかに留めておけたはずの紹介をする。自分の知っていることを、まだ知らない人に、声に出して教える。じつはそれが、自分がそれを本当に身につける一番の近道でもある。自分の時間だけでなく、自分がお金をもらっている技能のほうを差し出す。得意なことの一午後は、一般的な手伝いの一週間分の価値があるからだ。後輩に、自分が実際にいくらもらっているかを伝える。他人の給料を変えられる、数少ない一文だ。そして、頼んでもいない、一生知ることもない、お返しもできない誰かの味方をする。
誰を後押しすればいいのか、そして何と言えばいいのか
誰かを後押しするというのは、その人がいない部屋で、その人の名前と、その人がやった具体的なことを口に出すことだ。メンターはカフェで助言をくれる。後押しする人は、決定がなされる部屋で話す。この二つが別物だということを、多くの人は一度も教わっていない。
これは言葉づかいの好みの話ではない。なぜいまも男性のほうが女性より昇進するのかを扱った Harvard Business Review の記事は、その差をはっきり書いている。企業は優秀な人材のメンタリングに多額を投じているのに、その手厚さは昇進に変換されていない。だからこそ記事のなかで、ある女性は「メンタリングされすぎて死にそうだった」と言うことになった。報酬と機会は部屋で決まる。助言はカフェで手渡される。ずっと後者しかしていないなら、それは親切ではあるけれど、相手には何の負担もかからない代わりに、何も手に入らない。
人前でやる版が「たたえる」で、技術のすべては具体性にある。ぼんやりした称賛はただの雑音だ。行いに名前をつける。その人への評価を左右する人たちの前で名前をつける。そして、みんながまだ覚えているうちに、一週間以内にやる。承認についての Gallup の調査では、いちばん記憶に残る承認は本人の上司や経営層から来ることが多く、正直で、その人個人に向けられていて、ためこんで後でまとめて渡すよりも、こまめに、タイミングよく届いたときにいちばん効く、と分かっている。つまり、次の会議で言おうと思っているその一言は、いつか送るつもりの丁寧なメッセージより価値がある。
これがアプリの数字にもたらすもの
ここからが、いい話のカテゴリーではなく、お金のカテゴリーに属する部分だ。決まった分は誰かのために出ていく、と決めた人にとっては、アプリを開いたときの残高の意味そのものが変わっている。
どこかに送ると自分で決めたお金には、役目がある。用途がくっついた蓄えであり、役目のある数字は、火曜の夜に見るのがずっとらくだ。役目のない数字は、あなたがどれくらいうまくやれているかという、終わらない判定になってしまう。これは気分の話ではなく、手順が変わったという話だ。そのうちのどこまでが何のためのお金か、すでに決めてある。だからアプリを開くことは、成績をもらうことではなく、計画を確認することになる。ひるまずにアプリを開ける人は、交渉がうまく、待てる時間が長く、急いで高くつく判断をすることが少ない。そういう種類の落ち着きに届く道として、これはいちばん安いもののひとつだ。
だから、いまあるこの一週間を使う。お金が動く前に、分を決める。時間をいくらか買い戻す。紹介をひとつ送って、その人がいない部屋で、ひとりの名前を口に出す。そのうえで、もっと稼ぎに行く。ここに書いたことは、どれも小さい人生をすすめる話ではない。大きいほうの人生が、生きるに値しつづけるための話だ。
出典
- Proceedings of the National Academy of Sciences (PubMed Central), 時間を買うことは幸福を高める
- Harvard Business Review, なぜいまも男性のほうが女性より昇進するのか
- Gallup, 従業員への承認が大事な理由:低コストで大きな効果