メインコンテンツへスキップ

PURPOSE · 原点

あなたをつくった人へ、まだ声が届くうちに感謝を伝える方法

あなたの人生の向きを静かに決めた人が、五人か六人はいます。そしてその大半は、そのことを知りません。名前を書き出すのに十分。伝えるのに必要なのは、具体的な思い出をひとつ、それが何を変えたかを一文、そしてお願いごとを何も添えないこと。それだけです。

男性と女性がテーブルをはさんで向かい合い、昼の光の中で話している。

写真:Leslie Jones(Unsplash)

木曜日に、二十年前の恩師が退職したと知りました。その晩、彼は何か書こうと机に向かいます。ところが、最初の一行で手が止まってしまう。その先生が自分に何をしてくれたのかは、はっきりわかっていました。廊下で呼び止められたとき、「あなたは自分で思っているより、これが得意だよ」と言ってくれたこと。その一言を土台にして、彼は職業人としての人生のほとんどを組み立ててきました。本人には一度も伝えないまま。

そういう人が、たいていの人には五人か六人います。いちばん愛している人たち、という意味ではありません。あなたの進む向きを変える決断をした人たちのことです。中に入れてくれた人。あなたの名前を口にしてくれた人。当たり障りなく流すこともできたのに、一度だけ本当のことを言ってくれた人。その大半は、自分がそうしたことに気づいていません。名前を書き出すのに十分。伝えるのに必要なのは、具体的な思い出をひとつと、それが何を変えたかを一文。ほかには何も添えません。

自分をつくったのは誰か。そのリストはどう作る?

愛情ではなく、決断で考えてみてください。あなたの向きを変える選択をした人を、ひとりずつ書き出していく。たいていは五人か六人にたどり着き、そのうち少なくとも二人には、自分でも驚くはずです。

四つの問いで、リストはすぐにそろいます。そうする義理もないのに、あなたを中に入れてくれたのは誰か。あなたのいない部屋で、あなたの名前を出してくれたのは誰か。いまも毎週使っている何かを教えてくれたのは誰か。自分が損をするかもしれないのに一度だけ本当のことを言い、しかもそれが正しかったのは誰か。

気づいてほしいのは、この四つのどれも「誰が優しくしてくれたか」を聞いていない、ということです。優しさはすばらしいものですが、それは別のリストになります。あなたをつくった人は、とげのある人だったかもしれません。人生のほんの一時期しか関わらなかった人かもしれないし、一緒に働いていて楽しいとは言えない上司だったかもしれません。基準はただひとつ。その人の決断のせいで、あなたの人生の向きが変わったかどうかです。名前は紙に書いてください。目で見られるかたちになると、リストは自分で自分を直しはじめます。

十年話していない相手に、何と書けばいい?

順番はこの三つです。具体的な思い出をひとつ、それが何を変えたかを一文、そしてお願いごとはなし。六文もあれば十分で、四文でも構いません。

具体的な思い出こそが、この手紙の仕組みのすべてです。「すばらしい先生でした」は、その人全体についての褒め言葉なので、するりと滑り落ちてしまいます。「九番教室の前の廊下で呼び止めて、あなたは自分で思っているよりこれが得意だ、と言ってくださいましたよね」なら話は別です。その人が確かにそこにいたこと、その言葉が残ったこと、二十年たっても消えないほど大事だったこと。そのすべての証拠になります。そのうえで、それが何を変えたのかを、まっすぐ一文で書きます。そのあと自分が何をしたか、いま何をしているか、それがなければ挑戦しなかったであろうことは何か。

Nicholas EpleyとAmit KumarはPsychological Science誌で、感謝の手紙を書いた人たちは、受け取る側がどれだけうれしく感じるかを大きく見誤り、逆に気まずさのほうはかなり大げさに見積もっていた、と報告しています。手紙は、送った本人の予想よりずっとよく届いていました。つまり、送る前に感じるあの居心地の悪さは、送ったあとに起きることをまるで言い当てていない、ということです。証拠のほうを信じて、その気持ちは押しのける価値があります。

お願いごとを添えると、なぜ台無しになる?

贈りものが取引に変わってしまうからです。しかも受け取る側は、文章の途中でその切り替わりを感じ取ります。ありがとうにお願いが乗った瞬間、その人は「さっきの感謝は、いったい何のためだったんだろう」とさかのぼって考えなければならなくなります。

ここがいちばん破られやすく、そして、その一通が記憶に残るかどうかを決めるルールです。「そのうちぜひお会いしたいです」はなし。「ひとつご相談したいことがあって」もなし。リンクも、添付も、日程調整もなし。本当に力を借りたいなら、それは別の日の、別のメッセージです。しかも最初の一通が何も求めていなかったぶん、そのお願いはずっとよく届きます。

同じ業界にいまもいる相手に送る場合も、ルールは変わりません。感謝と同時に有益なつながりを再起動させるのは、人脈づくりの一手です。人脈づくりは正当な行いですが、これはそれではありません。この一通は、最後で閉じています。次の一歩が中に入っていない。だからこそ、まっすぐ届くのです。

もう間に合わなかったときは?

それでも書いて、その人を知っていた誰かに送ってください。息子さんや娘さん、同僚、学校、チーム。その一文はちゃんと仕事をしますし、亡くした人が実際に何をしていたのかを、めったに聞く機会のない人たちのもとへ届きます。

短く、具体的に。本人に宛てるときとまったく同じです。思い出をひとつ、それが何を変えたかを一文。ご家族は、そういうものをずっととっておきます。もし送る相手がどこにもいなくても、最後まで書き切って手元に置いてください。誰かが自分に何をしてくれたのかを正確に言葉にする作業こそが、この記事の次の段落を生むからです。

人前で言ったほうがいいのは、どんなとき?

それを受けて動ける人が、その場にいるときです。個人的な感謝は贈りもの、人前での称賛はてこになります。二つは別の行いで、どちらもやるべきものです。

その人が何をしたのかを、上司の前で、同僚の前で、生徒や理事会の前で、具体的に名指しする。それは、あなたには一文の手間でしかないのに、その人にとってはキャリアの出来事になります。しかも、あとから他人が繰り返して語れるのはこのかたちだけで、評判というものはそうやって広がっていきます。だから両方走らせてください。お願いごとを添えない個人的なメッセージを送る。そのうえで別の機会に、意味のある人たちの前で、同じ具体的な話を声に出す。

これは過去の人だけでなく、いま隣にいる人に対しても、今日から回せるやり方です。週に一度、すでに出席している会議の中で、誰かがやった具体的なことをひとつ名指しする。「今期はよくやった」ではなく、実際にやったことを、ひと区切りの言葉で、それが何を生んだかまで添えて。Robert EmmonsとMichael McCulloughはJournal of Personality and Social Psychology誌で、ありがたいと思えることを毎週数える習慣を続けた人たちは、自分の人生への感じ方がよくなり、ある研究では終わるころには運動量まで増えていた、と報告しています。これほど手軽で、これほど遠くまで届く習慣は、気分ではなく予定表に乗せておく価値があります。

続けられるかたちにする

気分ではなく、カレンダーでやってください。月にひとりなら、一年で十二人。最初の五、六人のリストは半年もしないうちに尽き、そこからもっと面白い場所へ押し出されます。いま、あなたをつくっている最中の人たちのところへ。

そこまでたどり着く人は、あまりいません。リストは閉じていないのです。今年、誰かが廊下であなたにかける一言が、2046年になってもまだあなたを走らせているかもしれない。それが誰だったのかを知る方法はひとつだけ、気づけるくらい長くこの習慣を続けることです。そして、過去に向けて送るのと同じ具体的な一文は、未来にも効きます。意味のある場所で、若い誰かについて声に出して言うときに。

これは仕事からの逃避ではありません。月に十分。まわりの人たちは自分の仕事がうまくなり、そしてあなたは、上に行けば行くほど手に入れにくくなるものをひとつ受け取ります。あなたの名前が出たときに、心から喜んでくれる人たちです。最初の一通を、今夜送ってください。四文で足ります。

出典